いたでも無い。そんな声を、まさかに僕だつて間違へる筈も無からうぢやないか。どうしても阿爺だ。』
『君、真実《ほんたう》かい――戯語《じようだん》ぢや無いのかい――また欺《かつ》ぐんだらう。』
『土屋君は其だから困る。僕は君これでも真面目《まじめ》なんだよ。確かに僕は斯《こ》の耳で聞いて来た。』
『其耳が宛《あて》に成らないサ。君の父上《おとつ》さんは西乃入《にしのいり》の牧場に居るんだらう。あの烏帽子《ゑぼし》ヶ|嶽《だけ》の谷間《たにあひ》に居るんだらう。それ、見給へ。其|父上《おとつ》さんが斯様《こん》な隔絶《かけはな》れた処に居る君の名前を呼ぶなんて――馬鹿らしい。』
『だから不思議ぢやないか。』
『不思議? ちよツ、不思議といふのは昔の人のお伽話《とぎばなし》だ。はゝゝゝゝ、智識の進んで来た今日、そんな馬鹿らしいことの有るべき筈が無い。』
『しかし、土屋君。』と敬之進は引取つて、『左様《さう》君のやうに一概に言つたものでもないよ。』
『はゝゝゝゝ、旧弊な人は是だから困る。』と銀之助は嘲《あざけ》るやうに笑つた。
 急に丑松は聞耳を立てた。復《ま》た何か聞きつけたといふ風で、すこ
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