お爺さんがそう申しました。
「一人はあんまり早過ぎたし、一人はあんまり遅過ぎました。丁度|好《い》い時を知らなければ、好い榎木の実は拾われません。私《わたし》がその丁度好い時を教えてあげます。」と申しました。
ある朝、お爺さんが二人の子供に、「さあ、早く拾いにお出《いで》なさい、丁度好い時が来ました。」と教えました。その朝は風が吹いて、榎木の枝が揺れるような日でした。二人の兄弟が急いで木の下へ行きますと、橿鳥が高い枝の上からそれを見て居まして、
「丁度|好《い》い。丁度好い。」と鳴きました。
榎木の下には、紅い小さな球《たま》のような実が、そこにも、ここにも、一ぱい落ちこぼれて居ました。二人の兄弟は木の周囲《まわり》を廻《まわ》って、拾っても、拾っても、拾いきれないほど、それを集めて楽《たのし》みました。
橿鳥は首を傾《かし》げて、このありさまを見て居ましたが、
「なんとこの榎木の下には好《い》い実が落ちて居ましょう。沢山お拾いなさい。序《ついで》に、私も一つ御褒美《ごほうび》を出しますから、それも拾って行って下さい。」と言いながら青い斑《ふ》の入った小さな羽を高い枝の上から落し
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