めるのも聞かずに、馳出《かけだ》して行きました。この子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上に居た一|羽《わ》の橿鳥《かしどり》が大きな声を出しまして、
「早過ぎた。早過ぎた。」と鳴きました。
気の短い弟は、枝に生《な》って居るのを打ち落すつもりで、石ころや棒を拾っては投げつけました。その度《たび》に、榎木の実が葉と一緒になって、パラパラパラパラ落ちて来ましたが、どれもこれも、まだ青くて食べられないのばかりでした。
そのうちに今度は兄の子供が出掛けて行きました。兄は弟と違って気長な子供でしたから「大丈夫《だいじょうぶ》、榎木の実はもう紅くなって居る。」と安心して、ゆっくり構えて出掛けて行きました。兄の子供が木の実を拾いに行きますと、高い枝の上に居た橿鳥がまた大きな声を出しまして、
「遅過ぎた。遅過ぎた。」と鳴きました。
気長な兄は、しきりと木の下を探《さが》し廻《まわ》りましたが、紅い榎木の実は一つも見つかりませんでした。この子供がゆっくり出掛けて行くうちに、木の下に落ちて居たのを皆《みん》な他《ほか》の子供に拾われてしまいました。
二人の兄弟がこの話をお爺さんにしましたら、
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