ないか』という話があった。義雄に相談すれば、止《と》められるにきまってるから――貴様が断りなしに決行したのは、そりゃ解《わか》ってる」
民助は万事|呑込顔《のみこみがお》に言って見せて、やがて弟の顔を眺《なが》めながら言葉を継いだ。
「そこでだ。俺の考えと義雄の考えとは少し違う。俺の考えでは、貴様が心の中で節ちゃんのことを思ってる分には、幾ら思っていても関《かま》わんと。そんなことまで他人が関渉の出来るものでもない。ところが義雄の考えはそうじゃない。心の中で思っていても不可と言うんだ。貴様が節ちゃんのことをあきらめてしまうまでは、この手紙は受取らんと言うんだ。義雄の方でもそう言うし、貴様も当分謹慎していたいと言うものなら、俺も今度は見合せて帰る。まあ、この手紙はそっちへ納《しま》って置け」
こう言った後で、民助は預かった手紙を懐から取出して、それを弟の前に置いた。
遽《にわ》かに母屋《おもや》の方から飛んで来た子供にさまたげられて、一時二人の話は途切れた。岸本は一旦《いったん》出したものを引込ますということよりも、節子の前途のことを憂うる心が先に立った。
「私から兄さんにお願いして置きたいと思いますが――」と岸本が言った。「節ちゃんがこれから先の方針のことで、いずれ話の出るような折もありましょう。あの人の意志だけは重んじてやって下さい。それだけは当人の自由に任せてやって下さい」
「そりゃ言うまでもない」と民助は答えた。「人の意志を束縛するようなことは俺は嫌《きら》いだ。その点は節ちゃんの自由に任せるわい」
「無理なことをしますと、どういう悲劇が起らないともかぎりませんぜ――」
「まあ、台湾へでも連れて行って見たらばナ、どうまた気が変らんものでもあるまい。その時はその時サ」
「あの人の手は、もう少し治して置くと可《よ》かったんですが、嘉代さんの病気でそれなりに成っちまいました。台湾の方へ行って姉さんのお手伝いが十分に出来れば可いが――それを私は心配しています」
「ナニ、台湾の方は内地とは違って気候も熱いしナ、節ちゃんの手なぞも自然に好くなるだろうと俺は見てる」
「何方《どっち》にしても、あの人がほんとうに生きて出られるようにしてやりたい――それが私の希望なんです。生きて出られさえすれば、それが何よりです」
岸本はまだその他に、節子の志望が宗教へ行くことにあると
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