交状のことを思い出した。それを納《しま》って置いたところから取出して来た。
「義雄さんからこういうものが来ています」と岸本はその手紙を民助の前に置いた。「私の方から言えば、こういうものを頂戴《ちょうだい》して置くのも、自分から勘当を受けるのも、謹慎している意味に変りは無いようなものです。もし兄さんの役目が済まないという御考えでしたら、この手紙を持って行って頂きましょうか」
「よし。俺がそれを預かって行こう」
 と民助も折れて、大判の奉書に義雄自身の手で大きく書いてある手紙をひろげて見た。
「兄弟の縁を切るなんてことは容易なことじゃ有りません」と岸本は言った。「まあ他の親戚《しんせき》が聞いたら何と思うか知りませんが、私はそれほど悪い人間じゃありませんよ」
「白状するだけ、まだそれでも正直なところが有るかナ」と民助は笑った。「貴様もまあ、何か立派な仕事でもして、この不名誉を回復するがいい」
「立派な仕事なんて言いますけれど、あそこまで節ちゃんを連れて来たことが私には可成《かなり》な仕事でした――どうせ、人間の為ることです、そう大したことの出来よう筈《はず》もありません――まあ、節ちゃんのことは宜《よろ》しく御願い申します――私はどうにかこうにかここまで漕付《こぎつ》けて来たようなものなんです――」
「そりゃどうせ貴様等は結婚することは出来ないんだからなあ。心で思ってる分には、幾ら思っていたって差支《さしつかえ》はない――そりゃ差支はない」
 十年一日のようにある事業家を助けて三つ組の銀盃《ぎんぱい》と金子《きんす》とを贈られたという民助は、台湾の方で事務でも運ぶように節子の話を運んだ。
「そんなら俺はこれから谷中へ行って来る。二三日内に復《ま》たやって来る」
 と兄は言って、義雄の手紙を懐《ふところ》にして起ち上った。

        百三十六

 新規な住居《すまい》の方へ岸本が引移ろうとする前の日の午後に、復た民助が訪ねて来た。
「いよいよ引越しだね」
 と民助は弟の部屋を見廻しながら言った。
「今度の引越はこの通り簡単です。まあお話しなすって下さい」
 こう岸本も答えて、何もかも動きかけて来た中で、兄が齎《もたら》した報告を受けようとした。
「あれから谷中でよく話して見た。義雄が言うには、『どうして捨吉はああいう懺悔を断りなしに発表した、何故その前に俺に相談し
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