》むような量見を起したんですね」
「関係なしに、そういう量見を起したなら、そりゃ聞える――そりゃ立派なものだ」
「しかし、関係とは言いますけれど、男と女の間でそういうことにでも成らなけりゃ本当に相手のものを救うような気にも成らないようなものじゃ有りませんか。私もひどくそういう関係を卑《いや》しんだ時代も有りました。そこからいろいろな苦しみも起って来たようなものですが、今では兄さん達のようにそれほど卑しいものとは思っていません」
「そういうむつかしいことは俺は知らない。俺はそういうことを言いに来たんじゃない。貴様が一婦人の愛に溺《おぼ》れていることを言いに来たんだ」
百三十四
民助は弟の反省を促そうとするような調子で、今まで誰にも話したことの無いという父の生涯に隠れたものを岸本の前に展《ひろ》げて見せた。民助に言わせると、あれほど道徳をやかましく言った父でも誘惑には勝てなかったような隠れた行為《おこない》があって、それがまた同族の間に起って来た出来事の一つであったという。
「俺は今までこんなことを口に出したことも無い」と民助は弟を前に置いて、最早《もはや》この世に居ない父の道徳上の欠陥が末子《まっし》の岸本にまで伝わり遺《のこ》っているのを悲むかのような口調で言った。
「そういうお父《とっ》さんの側に附けて置いては不可《いけない》――どうしても捨吉は他《よそ》へ修業に出さなけりゃ不可――その考えが俺にあったから、お父さんに勧めて貴様を東京へよこすことにした。その親の子だ。余程考えてよく行《や》って貰《もら》わんけりゃ成らんというのは、そこだ。まあ俺なぞから見ると、貴様のように一婦人に迷うなんてことが、てんで可笑《おか》しい」
「そう兄《あに》さんのように言っても困ります」と岸本は答えた。「ここまで出て来るには私だってもいろいろなところを通って来た揚句《あげく》です。一婦人とは言いますけれど、私はそう軽く視《み》ていません。もしそんなことを言ったら、一生互に苦労する細君だっても一婦人じゃありませんか」
「いや、そこが可笑しいと言うんだよ。同じ苦労するならばだナ、もっと大きなことの為に苦労するが可《い》いじゃないか。もっと世の中のために成るとか、人間全体のために益《えき》になるとかサ」
「私もそう思わないじゃ有りません。しかし人間のためと言いましても
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