まで合せたことの無いような顔を合せた。節子の話が出るまでは、岸本は沈着《おちつ》かなかった。

        百三十三

 岸本は半日民助兄と話し暮した。久しぶりで酒を取寄せ、夕飯を出す頃になっても、未だ節子の話は出なかった。子供等は台湾の伯父さんと一緒に食事することをめずらしがるばかりでなく、土産にと言って民助のくれた椰子《やし》の実の菓子鉢《かしばち》などを見るにつけても熱い地方のことを子供心に聞きたがるという風で、食後まで伯父さんの側を離れようとはしなかった。
「お客さまはお泊りでございますか」
 とやがて女中が訊《き》きに来るように成った。
「子供は今夜は早く寝るが好い……お前達はもう寝よや……泉ちゃんも繁ちゃんもお休み」
 と民助に言われて、子供等は何かなしに嬉しそうに床に就《つ》いた。女中は客の夜具を運んで来て、離座敷《はなれ》の潜《くぐ》り戸《ど》を閉めて行った。母屋《おもや》の台所の方では未だ宵の口と言ってもいいほどの時ではあったが、宿の主人の笑声一つ離座敷へは聞えて来なかった。
「時に、懺悔《ざんげ》の一件だ」
 と民助が切出した。
 岸本はその話の出るのを待受けていた。民助兄がここへ訪《たず》ねて来る前に谷中の方で既に義雄兄との協議のあったことをも想像していた。それにしても、節子を処分しようとしている義雄兄からの依頼を受けてやって来た長兄を前に置いて、岸本は何を話していいかも分らなかった。
「まあ廻りくどいことは訊くまい……」と民助が言った。「貴様が旅に出掛けるまでのことは俺《おれ》の方では問わない。旅から帰って来てだナ、それから復《ま》た節ちゃんと関係があったか、どうか――それを訊こう」
「ありました」と岸本は簡単に答えた。
「それはどうも怪《け》しからん。国へ帰って来てから復た関係をつけるなんて、実に言語道断だ。貴様も意志の弱い男じゃないか」
「そりゃもとより弱いものです。弱いことは自分でも承知しています。私から義雄さんへ宛《あ》てて手紙を進《あ》げて置きました。あの中にはいくらか自分の心持も出ているつもりですが、あれを兄《あに》さんは読んで見て下すったでしょうか。私が旅から帰って来ますと、義雄さんの家の様子といい、節ちゃんの様子といい、なかなか口にも言えないようなものでした。まるで節ちゃんは半分死んでる人でした。まあ私は人一人を憐《あわれ
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