から一銭だけ自分で出して行くようになどと言われると、子供心に嬉しかったと書いてよこした。見ると、状箱のような容器《いれもの》に毛糸で編んだお金入が入れてある、そのお金入の中にほんの僅《わずか》なお金を見た時は、自分はほんとに済まないことを言ったような悲しい気持になって、もう決してそんなことは言い出すまいと思ったと書いてよこした。それが自分の十か十一の歳《とし》の時であったと書いてよこした。考えて見ると自分は幼少《ちいさ》い時から苦労性であったと書いてよこした。
 今度なぞは、もし台湾へ行くように成ろうとも、最早心の曇るようなことはあるまいと思う、と彼女はまた書いてよこした。この間も父が一ちゃんを酷《ひど》く叱った時、後で一ちゃんが青ざめた顔をしていたから、祖母さんが見かねて、いろいろなことを言ったと書いてよこした。その時父の言うには、節ちゃんなんかがそういう意見を出しているに違いないが、口で言って聞く位なら真《まこと》に有難い、口で言っても聞かないものがあればこそ牢屋もあり警察もある、言うことを聞かない奴にも種々《いろいろ》あるが、そういう奴はまたそういう奴で別に処分する、そんなことを言って暗に父から仄《ほの》めかされたと書いてよこした。けれども自分はしっかりした、心強いものを持っている。台湾へ行くように成ろうと朝鮮へ行くように成ろうとそんなことのために動かされないと書いてよこした。「いつでも心の中では御一緒ですものね」とも書いてよこした。
 これを読むと、岸本はいたいたしい、いらいらとした位置に節子を置いて考えるにも耐えないような気がして来た。どうかして今の境遇から離れさせたい。その意味から彼は寧《むし》ろ節子の台湾行の一日も早く事実となるのを望んでいた。

        百二十七

 遠いところへ節子が行ってしまう前に、岸本は一度彼女に逢《あ》いたいと思う心を起さないではなかった。告白後の節子が殆《ほとん》ど幽閉の身も同様で、「何処《どこ》へも出ちゃ不可《いけない》」と父から厳《きび》しく言い渡されて、渋谷の姉の家へ独《ひと》りで行くことすらも禁じられているのを岸本は知っていた。その中でも、もし彼の方で節子を見たいと思えば、いかにでもして逢うぐらいの機会が見出せないでもなかった。しかし彼は無理にそんな機会を見つけてまでも、こっそり逢いに行くような場合でないと思
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