うにこうゴツゴツした身体のものは、そういう柄でないと。不思議にも岸本はその骨張った、ゴツゴツした、背の高い節子から、悩ましいまでに柔かく女らしい線なぞの流れて来るのを見つけたものであった。
岸本の下宿のあるところから愛宕山《あたごやま》へは近かった。そこへ子供を連れて行く折なぞは、泉太や繁が父と一緒に歩き廻ることを楽みにするばかりでなく、君子までも嬉しそうに随《つ》いて来た。見上げるように急な男坂《おとこざか》の石段でも登って行くと、パノラマのような眺望《ちょうぼう》がそこに展《ひら》けている。新しい建築物《たてもの》で満たされた東京の中心地の市街から品川の海の方まで見えるその山の上で、岸本の心はよく谷中の空の方へ行った。
百二十六
この節はちっとも手紙を寄《よこ》さないと御思いになりましょう、と節子が書いてよこした。彼女のことがしきりに気に掛っている時で、岸本はその手紙をひぐらしの鳴声の深くすずしく聞えて来るような自分の部屋の障子の側で読んで見た。いつでもそういう時があったら、ほんとに手紙らしい手紙を書いているといったような好ましい心持で書いた手紙を差上げるために、今の自分が支度《したく》をしていると思い出して頂きたい、と彼女は書いてよこした。こうしてお目にも掛れないように成ったら、さぞ自分が鬱《ふさ》ぎ込むとでも父は思っていたのであろう、それなのに自分が一生懸命で勉強しているので父は案外なような顔付で随分いろいろなことを言うと書いてよこした。でも余りにいろいろなことを言われると、少しでも眼前《めのまえ》の煩《わずら》わしさから離れたいと思うから、余計に読みたいと思う書籍《ほん》も読めると書いてよこした。
めずらしく彼女は幼少《ちいさ》い時分の追憶などをその手紙の中に書きこんでよこした。自分は随分貧しく育てられたが、しかしこうして置けば可《よ》かったと後で悔むようなことは何事《なんに》も無かったから、家庭の貧しさもさほどに苦にもしなかったと書いてよこした。自分は他の子供のようにお銭《あし》を持って行って少しずつ菓子などを買うものでは無いと思い込んでいたが、田舎で生煎餅《なませんべい》というあの三角な菓子などを売りに来て、他の子供が皆それを持っていると、どうかすると自分も欲しくなったと書いてよこした。それを御願いして、では買って進《あ》げる
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