方のことも聞いてやらなくちゃ、私が聞いてもその通りには話せませんから節ちゃんに書いて貰《もら》うことにしましょう、それを私がお父さんに読んであげましょうッて言いましたのよ。お父さんはそれを聞きましてね、鸚鵡《おうむ》や鸚哥《いんこ》なんて奴はよくしゃべるから、迷い言の百万遍くりかえしても俺の耳には入らないが、禽獣のしゃべるのを一つ聞いてやろう、人間の顔をした禽獣のことだから何か物も書くだろう、一つ禽獣の書いたものを見てやろうと仰るんですよ。とても何を書いても解《わか》って貰えようは無いとは思いました。けれども自分の考えだけは一応明かにして置きたいと思いましたので、別紙のようなものを昨晩書きました。今日にも姉が参りましたら、読んで貰いましょうと思っております。毎日何かにつけて、そんなことを言われますけれど、この節は腹など立たなくなりました。自分をうつ鞭《むち》とも考えまして、はっきりした心持で一心に勉強したり家事を手伝ったりしております。つくづく『創作』の力を思います。それにしてもお父さんの気象として、何でも御自分の意のままに成ると考え、無理にもまたそうしなければ気のすまないところから、思いのままならぬ嘆息を僅《わず》かに禽獣と見て慰めていらっしゃるかと思いますと、お気の毒のようにもぞんじます。おん身御大切に。もうすこしで遠い旅からお帰りになった日も復《ま》た参りますね」
 節子がこれを書いてよこしたのは六月の下旬だ。どうせ一度はこういう時が来る、岸本は節子のことを思いやった。そこから本当の進路が開ける、彼女が心のどん底を父に打明けただけでも、それだけでも既に彼女は明るみへ出られたのだとも思いやった。岸本はつくづく「創作」の力を思うという彼女を想像し、誰一人理解するもののない彼女の周囲を想像し、親の心に背《そむ》いても生きて出ようとするものの涙の多い朝晩を想像した。

        百二十一

「お前は恐ろしいことをしてくれた。黙って置きさえすれば最早知れずに済むことではないか。黙って置きさえすればお前は好い親戚《しんせき》として通り、好い叔父さんとして通っているではないか」
 こういう声が来て絶えず岸本の耳の辺《ほとり》にささやいた。
 真実の曝露《ばくろ》ということは弟の方から進んで受けようとした勘当ぐらいの程度に止まらないで、兄の方から宣告でも下したような義絶
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