懺悔《ざんげ》の稿はポツポツ世間へ発表されて行った。岸本と節子との最初の関係は早や多くの人の知るところと成った。かねて自分の身に集まる嘲笑《ちょうしょう》と非難とは岸本の期していたことで、それがまた彼の受くべき当然の応報《むくい》であった。
下宿にある岸本は当分客を謝《ことわ》るようにして、殆《ほと》んど誰にも逢《あ》わずに屏居《へいきょ》の日を送っていた。五月の下旬になった頃であった。この岸本のところへ女中の案内もなしに勝手を知った節子の姉が用事ありげに訪《たず》ねて来た。
「ごめん下さいまし」
という輝子の声を聞いたばかりでも、岸本にはもう秘密をブチマケた後の特別な心持が先に立った。
「泉ちゃんも繁ちゃんも学校ですか。君ちゃんもこの節はお弁当ですか――」
こんな子供の噂《うわさ》は前置で、輝子は自分の言いに来たことを言出しかねて、話のハズミを捉《とら》えようとしているという風に見えた。気まずい思いのする時がしばらく岸本の方にも続いた。
「叔父さんは私が何に上りましたか、お解《わか》りでしょう」
到頭輝子はこんな風に、改まった調子で切出した。
「俺《おれ》の書いたものを読んで見たかね」と岸本は言った。
「拝見いたしました。実に驚いてしまいました。まさかあんなことをお書きに成ろうとは思いませんでした――誰だって叔父さんの為に惜まないものは有りません」
「…………」
「生憎《あいにく》また私の御懇意に願ってるような家では皆あれを読んでます。何だか、おかしいおかしいと思ってるうちに、ポカッとあんなことが出てしまった……私にそれを見ろッて、ある家の奥さんが出して下すった時は、丁度また節ちゃんのことが出ている時じゃありませんか」
「しかし俺だって、相応に覚悟して掛ったことだ」
「そりゃ誰方《どなた》だってもそう言いますサ。よくよく考えた上でなければこんなことは書けないッて。叔父さんは御自分で為《な》すったことを御自分でお書きなさるんですから、それでも好いかも知れませんが、唯《ただ》妹さんが可哀そうだッて――何処《どこ》へ私が伺ってもそれを言われます。ほんとにあんなことをお書きになって、節ちゃんをどうして下さいます」
「でも節ちゃんは承知なんだ。節ちゃんの承諾を得た上で、俺はあれを発表した」
「そりゃ、まあそうかも知れませんけれど――もう少しどうにか成らないものですか
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