なぞを片付ける音がする。家でも出てしまうんじゃないかと、祖母さんは心配する。丁度また妙なことがあるもので、祖母さんが一ちゃんに買物に行ってお出《いで》と言って、五円札を一枚|長火鉢《ながひばち》の上に載せて置いたところが、その五円札が失《な》くなった。一ちゃんは知らないと言うし、祖母さんは確かに置いたと言うし、まさか節ちゃんが取るようなことはすまいが、しかし疑って見れば家を出るつもりで取らんとも言えない……」
「節ちゃんはそんな人じゃ有りません」と岸本は兄の言葉を遮《さえぎ》った。「あの人に限って、物を置いて行こうとも、取るような人じゃ有りません」
「それはまあどうでも可いとしたところで――」と義雄は言葉を継いだ。「何しろ、あの様子じゃ危くて仕様が無い。今朝は中根へ電話を掛けて、輝にも来て貰うことにした。輝でも来たら、どう節ちゃんも落付くものか知らんが、俺はそのままにしてお前の許《ところ》へやって来た。節ちゃんが何と言うかと思ったら――馬鹿な、この好い話を虚偽の結婚だなんて。虚偽の結婚とは何だ。誰だってそういう風にしてお嫁に行く。中根が輝を貰う時だって、先方《さき》で俺の娘を見たことも無い。輝の方だっても知らない。それでも結婚して見れば、あの通り幸福な家庭を造れる。まあ誰が見たって、あれなら申分の無い夫婦というものだサ。何処《どこ》の誰だって、女と生れて来て、今日《こんにち》お嫁に行かないようなものは無い。もしあれば、そんなものは片輪だ。俺の田舎《いなか》には何百軒という家があって、一人としてその家に結婚しないような女は居ない。一箇村の中で唯《たった》一人結婚しない女がある。お霜婆さんという女だけが一生独りで暮した。それだけだ。それ見ろ、結婚しないなんてことは人間の仲間に入れないことだ。一度はお嫁に行かんけりゃ成らん。一度行って、出て来たものなら、またそれでも可い。一度も行かんという法はないサ。例《たと》えばだ、嘉代の死んだに就《つ》いて諸方《ほうぼう》へ通知を出したろう、この葉書の裏に親戚総代として岸本捨吉と連名になっている田辺弘とあるのはこれはお節さんの旦那《だんな》さんの名ですかなんて、田舎の方へ行っても直ぐにそんなことを訊《き》かれる。世間というものはそういうものだサ」
「それで、兄さんはどうしようというんですか」と岸本が訊いた。
「だから明日でも節ちゃんを
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