@    九十五

「先日お話のあったことを書いてお目にかけます。一番最初わたしの上った頃の叔父さんはほんとにこわい方でしたよ。だって、毎日々々あんなに黙って、こわい顔ばかりしていらしったんですもの。それに泉ちゃん達のことと言えば、前に不可《いけない》と仰《おっしゃ》ったことでも、後でしてやればいいじゃないかって、叱《しか》られてしまうんですもの。どうして可《い》いか解りませんでしたよ。ですからね、その頃はただ気遣《きづか》いな、こわい方だったけれども、肩なんか揉《も》んであげるように成ってから、だんだんこわくなくなりましたよ。そればかりでなく、今までわたしなんかもう本当に誰からもやさしくなんてして頂いたことは有りませんでしたから。家でも、根岸でも、学校でもね。わたしの周囲《まわり》にあったものは、そうですね、こう威圧というようなものばかりだったんですもの。ですから今とはとても比べものには成りませんけれど、あの頃でさえ他のどんな人よりやさしくして下さるのが嬉しかったの。今まで男の人なんかは何だか気味悪いようにばかり思って、知ろうともしませんでしたけれども、何だか少しずつ分って来るような気がしましたよ。叔父さんもわたしが最初上った頃から見ると、じりじりと疲れていらしったようでしたね。御心配や何やかやで、よく横に成っていらっしたじゃ有りませんか。わたしはどうかして進《あ》げたいと思っても、どうすることも出来ませんでしたの。それ以前でもこれが進んで行ったらどうなるなどということは考えたこともありませんでしたから、ほんとに一頃《ひところ》は何もかも滅茶苦茶でしたよ。どうかすると叔父さんがにくらしくてにくらしくてね。三日ばかりそんな日の続いたことが有りました。けれど急に種々《いろいろ》なものが、今まで知らなかったものが見えて来ました。それからは一方では憎みながら、一方では矢張《やっぱり》囚われていたんですね。時によると憎みが余計に頭を持上げたり、時にはその反対のこともありました。それからあの母になったことを知った頃からは、両方とも余計に深いものに成って行ったんですね。遠い旅にお出掛になるなんてことをうかがった時は、不思議な位に思いましたよ。その時はもう離れられないものに成っていましたから。まあどうしてそんな心持に成れただろうと思いましてね。あの晩のこと覚えていらしって――ほら
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