uうむ、あれはまあ才子かも知れない」と言って義雄は腮《あご》を撫《な》でて見て、「そのかわり早熟な方で、すこし勉強すると頭脳《あたま》が痛いなんて、そんな弱いものじゃ話に成りゃしない。泉ちゃんと来たら、これはまたシンネリ、ムッツリの方サ。何を言われても黙っている。でも泉ちゃんは根気は好いぞ。半日一つ事に取付いても飽きないで遣《や》ってる。ああいうのが結局勝利を得るかも知れんテ」
岸本は自分の子供の方を眺めて、泉太の沈黙が矢張長い留守居から来た不自然なものではないかと想って見た。あの浅草の以前の住居の方で節子をよく泣かせたほどの激しい気象を持った繁が父の留守中のことも思いやられた。岸本は家の中を眺め廻した。こうして義雄兄の子供と自分の子供とを一緒に置くことの結果を考えた。仮令兄には懐《なつ》いても、嫂には懐かないという家庭の空気の中に子供等を置くことの結果をも考えた。いずれは竈《かまど》を分けなければ成らない。兄の家族と別れ住むことを考えなければ成らない。その心支度をすることも彼に取っては礼奉公の一つであると考えた。
四十九
十一月を迎えるように成って節子は眼に見えて違って来た。三年も彼女の側に居て彼女のために心配しつづけた祖母さんまでがそれを言うほど違って来た。彼女の動作から彼女の声までも生々として来た。
「でも、ほんとに力を頂きましたねえ」
節子は岸本の二階に来てそう言って悦《よろこ》んで見せるほどに成った。
こうした力は――それを貰ったと言って見せる節子の方ばかりでなく、どうかして彼女を生かしたいと思う岸本の方にも強く働いて来た。ほんとうに人一人でも救いたいと考えれば考えるほど、彼は節子の違って来たのを自分の胸に浮べて、その生命《いのち》の動きから湧《わ》いて来る歓喜《よろこび》を自分の身に切に感ずるように成った。のみならず、彼自身と姪との関係までも何となく変質したものと成って行くのを感じて来た。
もとより岸本は、姪の意志を曲げさせてまでも、無理に彼女を間違った方へ連れて行くつもりは無かった。彼と節子との間には二度結びついてしまうほどの根深いある物が横たわっていた。到底|姑息《こそく》な手段によって互の苦悩から救わるべくも無かった。叔父としての彼が苦しむ罪は、姪としての節子が苦しむ罪だ。もし節子の方から進んで罪過の責を分とうとし、彼
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