三人の女はまだ残って働いていた。私が振返って彼等を見た時は、暗い影の動くとしか見えなかった。全く暮れ果てた。
巡礼の歌
乳呑児《ちのみご》を負《おぶ》った女の巡礼が私の家の門《かど》に立った。
寒空には初冬《はつふゆ》らしい雲が望まれた。一目見たばかりで、皆な氷だということが思われる。氷線の群合とも言いたい。白い、冷い、透明な尖端《せんたん》は針のようだ。この雲が出る頃に成ると、一日は一日より寒気を増して行く。
こうして山の上に来ている自分等のことを思うと、灰色の脚絆《きゃはん》に古足袋を穿《は》いた、旅窶《たびやつ》れのした女の乞食《こじき》姿にも、心を引かれる。巡礼は鈴を振って、哀れげな声で御詠歌を歌った。私は家のものと一緒に、その女らしい調子を聞いた後で、五厘銅貨一つ握らせながら、「お前さんは何処ですネ」と尋ねた。
「伊勢でござります」
「随分遠方だネ」
「わしらの方は皆なこうして流しますでござります」
「何処《どっち》の方から来たんだネ」
「越後《えちご》路から長野の方へ出まして、諸方《ほうぼう》を廻って参りました。これから寒くなりますで、暖い方へ参りますで
前へ
次へ
全189ページ中97ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング