あたたかさ》が取れるという風だ。
 それから私は学校の連中と一緒に成ったが、朝霧は次第に晴れて行った。そこいらは明るく成って来た。浅間の山の裾《すそ》もすこし顕《あらわ》れて来た。早く行く雲なぞが眼に入る。ところどころに濃い青空が見えて来る。そのうちに西の方は晴れて、ポッと日が映《あた》って来る。浅間が全く見えるように成ると、でも冬らしく成ったという気がする。最早あの山の巓《いただき》には白髪のような雪が望まれる。
 こんな風にして、冬が来る。激しい気候を相手に働くものに取って、一年中の楽しい休息の時が来る。信州名物の炬燵《こたつ》の上には、茶盆だの、漬物鉢《つけものばち》だの、煙草盆だの、どうかすると酒の道具まで置かれて、その周囲《まわり》で炬燵話というやつが始まる。

     小六月

 気候は繰返す。温暖《あたたか》な平野の地方ではそれほど際立《きわだ》って感じないようなことを、ここでは切に感ずる。寒い日があるかと思うと、また莫迦《ばか》に暖い日がある。それから復た一層寒い日が来る。いくら山の上でも、一息に冬の底へ沈んでは了《しま》わない。秋から冬に成る頃の小春日和《こはるびよ
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