聞いたり、真白に霜の来た葱畠《ねぎばたけ》を眺《なが》めたりして、屋《うち》の外を歩き廻る度に、こういう地方に住むものでなければ知らないような、一種刺すような快感を覚えるように成った。
 草木までも、ここに成長するものは、柔い気候の中にあるものとは違って見える。多くの常磐樹《ときわぎ》の緑がここでは重く黒ずんで見えるのも、自然の消息を語っている。試みに君が武蔵野《むさしの》辺の緑を見た眼で、ここの礫地《いしじ》に繁茂する赤松の林なぞを望んだなら、色相の相違だけにも驚くであろう。
 ある朝、私は深い霧の中を学校の方へ出掛けたことが有った。五六町先は見えないほどの道を歩いて行くと、これから野面《のら》へ働きに行こうとする農夫、番小屋の側にションボリ立っている線路番人、霧に湿りながら貨物の車を押す中牛馬《ちゅうぎゅうば》の男なぞに逢った。そして私は――私自身それを感ずるように――この人達の手なぞが真紅《まっか》に腫《は》れるほどの寒い朝でも、皆な見かけほど気候に臆してはいないということを知った。
「どうです、一枚着ようじゃ有りませんか――」
 こんなことを言って、皆な歩き廻る。それでも温熱《
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