来る。空は晴れて白い雲の見えるような日であったが、裏の流のところに立つ柳なぞは烈風に吹かれて髪を振うように見えた。枯々とした桑畠に茶褐色《ちゃかっしょく》に残った霜葉なぞも左右に吹き靡《なび》いていた。
その日、私は学校の往《いき》と還《かえり》とに停車場前の通を横ぎって、真綿帽子やフランネルの布で頭を包んだ男だの、手拭《てぬぐい》を冠《かぶ》って両手を袖《そで》に隠した女だのの行き過ぎるのに遭《あ》った。往来《ゆきき》の人々は、いずれも鼻汁《はな》をすすったり、眼側《まぶち》を紅くしたり、あるいは涙を流したりして、顔色は白ッぽく、頬《ほお》、耳、鼻の先だけは赤く成って、身を縮め、頭をかがめて、寒そうに歩いていた。風を背後《うしろ》にした人は飛ぶようで、風に向って行く人は又、力を出して物を押すように見えた。
土も、岩も、人の皮膚の色も、私の眼には灰色に見えた。日光そのものが黄ばんだ灰色だ。その日の木枯が野山を吹きまくる光景《さま》は凄《すさ》まじく、烈しく、又勇ましくもあった。樹木という樹木の枝は撓《たわ》み、幹も動揺し、柳、竹の類は草のように靡いた。柿の実で梢《こずえ》に残ったの
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