る。雑木林や平坦《たいら》な耕地の多い武蔵野《むさしの》へ来る冬、浅々とした感じの好い都会の霜、そういうものを見慣れている君に、この山の上の霜をお目に掛けたい。ここの桑畠《くわばたけ》へ三度《みたび》や四度もあの霜が来て見給え、桑の葉は忽《たちま》ち縮み上って焼け焦げたように成る、畠の土はボロボロに爛《ただ》れて了《しま》う……見ても可恐《おそろ》しい。猛烈な冬の威力を示すものは、あの霜だ。そこへ行くと、雪の方はまだしも感じが柔かい。降り積る雪はむしろ平和な感じを抱《いだ》かせる。
 十月末のある朝のことであった。私は家の裏口へ出て、深い秋雨のために色づいた柿の葉が面白いように地へ下《くだ》るのを見た。肉の厚い柿の葉は霜のために焼け損《そこな》われたり、縮れたりはしないが、朝日があたって来て霜のゆるむ頃には、重さに堪《た》えないで脆《もろ》く落ちる。しばらく私はそこに立って、茫然《ぼうぜん》と眺《なが》めていた位だ。そして、その朝は殊《こと》に烈《はげ》しい霜の来たことを思った。

     落葉の二

 十一月に入って急に寒さを増した。天長節の朝、起出して見ると、一面に霜が来ていて、
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