で来た。しきりと私達を怪《あやし》むように吠《ほ》えた。この犬は番人に飼われて、種々《いろいろ》な役に立つと見えた。
 番小屋の主人が出て来て私達を迎えてくれた頃は、赤犬も頭を撫《な》でさせるほどに成った。主人は鬚《ひげ》も剃《そ》らずに林の監督をやっているような人であった。細君は襷掛《たすきがけ》で、この山の中に出来た南瓜《かぼちゃ》なぞを切りながら働いていた。
 四人の子供も庭へ出て来た。一番|年長《うえ》のは最早《もう》十四五になる。狭い帯を〆《しめ》て藁草履《わらぞうり》なぞを穿《は》いた、しかし髪の毛の黒い娘《こ》だ。年少《としした》の子供は私達の方を見て、何となくキマリの悪そうな羞《はじ》を帯びた顔付をしていた。その側には、トサカの美しい、白い雄鶏《おんどり》が一羽と、灰色な雌鶏《めんどり》が三羽ばかりあそんでいたが、やがてこれも裏の林の中へ隠れて了《しま》った。
 小屋は二つに分れて、一方の畳を敷いたところは座敷ではあるが、実際|平素《ふだん》は寝室と言った方が当っているだろう。家族が食事したり、茶を飲んだり、客を迎えたりする炉辺《ろばた》の板敷には薄縁《うすべり》を敷い
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