しょ》った男が林の間の細道を帰って行った。日は泄《も》れて、湿った草の上に映《あた》っていた。深い林の中の空気は、水中を行く魚かなんぞのようにその草刈男を見せた。
がらがらと音をさせて、柴《しば》を積んだ車も通った。その音は寂しい林の中に響き渡った。
熊笹《くまざさ》、柴などを分けて、私達は蕈《きのこ》を探し歩いたが、その日は獲物は少なかった。枯葉を鎌《かま》で掻除《かきの》けて見ると稀《たま》にあるのは紅蕈《べにたけ》という食われないのか、腐敗した初蕈《はつだけ》位のものだった。終《しまい》には探し疲れて、そうそうは腰も言うことを聞かなく成った。軽い腰籠《こしご》を提げたまま南瓜《かぼちゃ》の花の咲いた畠のあるところへ出て行った。山番の小屋が見えた。
山番
番小屋の立っている処は尾の石と言って、黒斑山《くろふやま》の直ぐ裾にあたる。
三峯神社とした盗難除《とうなんよけ》の御札を貼付《はりつ》けた馬小屋や、萩《はぎ》なぞを刈って乾してある母屋《おもや》の前に立って、日の映《あた》った土壁の色なぞを見た時は、私は余程人里から離れた気がした。
鋭い眼付きの赤犬が飛ん
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