教師の持山だ。松葉の枯れ落ちた中に僅かに数本の黄しめじと、牛額《うしびたい》としか得られなかった。それから笹の葉の間なぞを分けて「部分木《ぶぶんぼく》の林」と称《とな》える方に進み入った。
 私達は可成深い松林の中へ来た。若い男女の一家族と見えるのが、青松葉の枝を下したり、それを束ねたりして働いているのに逢った。女の方は二十前後の若い妻らしい人だが、垢染《あかじ》みた手拭《てぬぐい》を冠《かぶ》り、襦袢肌抜《じゅばんはだぬ》ぎ尻端折《しりはしょり》という風で、前垂を下げて、藁草履《わらぞうり》を穿《は》いていた。赤い荒くれた髪、粗野な日に焼けた顔は、男とも女ともつかないような感じがした。どう見ても、ミレエの百姓画の中に出て来そうな人物だ。
 その弟らしいのが三四人、どれもこれも黒い垢のついた顔をして、髪はまるで蓬《よもぎ》のように見えた。でも、健《すこや》かな、無心な声で、子供らしい唄を歌った。
 母らしい人も林の奥から歩いて来た。一同仕事を休《や》めて、私達の方をめずらしそうに眺めていた。
 この人達の働くあたりから岡つづきに上って行くとこう平坦《たいら》な松林の中へ出た。刈草を負《
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