で、その種類を区別するほど明るかった。
 五六本松の岡に倚《よ》って立っているのを望んだ。囁道祖神《ささやきどうそじん》のあるのは其処《そこ》だ。
 寺窪《てらくぼ》というところへ出た。農家が五六軒ずつ、ところどころに散在するほどの極く辺鄙《へんぴ》な山村だ。君に黒斑山《くろふやま》のことは未だ話さなかったかと思うが、矢張浅間の山つづきだ、ホラ、小諸の城址《しろあと》にある天主台――あの石垣の上の松の間から、黒斑のように見える山林の多い高い傾斜、そこを私達は今歩いて行くところだ。あの天主台から黒斑山の裾《すそ》にあたって、遠く点のような白壁を一つ望む。その白壁の見えるのもこの山村だ。
 塩俵を負《しょ》って腰を曲《ゆが》めながら歩いて行く農夫があった。体操の教師は呼び掛けて、
「もう漬物《つけもの》ですか」と聞いた。
「今やりやすと二割方得ですよ」
 荒い気候と戦う人達は今から野菜を貯えることを考えると見える。
 前の前の晩に降った涼しい雨と、前の日の好い日光とで、すこしは蕈《きのこ》の獲物もあるだろう。こういう体操教師の後に随《つ》いて、私は学生と共に松林の方へ入った。この松林は体操
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