塗った鉄橋――あれを渡る時は、大河らしい千曲川の水を眼下《めのした》に眺《なが》めて行った。私は上田附近の平地にある幾多の村落の間を歩いて通った。あの辺はいかにも田舎道《いなかみち》らしい気のするところだ。途中に樹蔭《こかげ》もある。腰掛けて休む粗末な茶屋もある。
青木村というところで、いかに農夫達が労苦するかを見た。彼等の背中に木の葉を挿《さ》して、それを僅《わず》かの日除《ひよけ》としながら、田の草を取って働いていた。私なぞは洋傘《こうもり》でもなければ歩かれない程の熱い日ざかりに。この農村を通り抜けると、すこし白く濁った川に随《つ》いて、谷深く坂道を上るように成る。川の色を見ただけでも、湯場に近づいたことを知る。そのうちに、こんな看板の掛けてあるところへ出た。
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┃ 湯 ┃
┃ ※[#ます記号、1−2−23] み や ば ら ┃
┃ 本 ┃
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升屋《ますや》というは眺望の好い温泉宿だ。湯川の流れる音が聞える楼上で、私達の学校
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