笠、あだかも燕《つばめ》が同じような勢揃《せいぞろ》いで、互に群を成して時季を違えず遠いところからやって来るように、彼等もはるばるこの山の上まで旅して来る。そして鳥の群が彼方《かなた》、此方《こなた》の軒に別れて飛ぶように彼等もまた二人か三人ずつに成って思い思いの門を訪れる。この節私は学校へ行く途中で、毎日のようにその毒消売の群に逢う。彼等は血気|壮《さか》んなところまで互によく似ている。
銀馬鹿
「何処《どこ》の土地にも馬鹿の一人や二人は必ずある」とある人が言った。
貧しい町を通って、黒い髭《ひげ》の生えた飴屋《あめや》に逢った。飴屋は高い石垣の下で唐人笛《とうじんぶえ》を吹いていた。その辺は停車場に近い裏町だ。私が学校の往還《ゆきかえり》によく通るところだ。岩石の多い桑畠《くわばたけ》の間へ出ると、坂道の上の方から荷車を曳《ひ》いて押流されるように降りて来た人があった。荷車には屠《ほふ》った豚の股《もも》が載せてあった。後で、私はあの人が銀馬鹿だと聞いた。銀馬鹿は黙ってよく働く方の馬鹿だという。この人は又、自分の家屋敷を他《ひと》に占領されてそれを知らずに働いている
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