種類が頭を持ち上げているのを見る。私は又三月の二十六日に石垣の上にある土の中に白い小さな「なずな」の花と、紫の斑《ふ》のある名も知らない草の小さな花とを見つけた。それがこの山の上で見つけた第一の花だ。

     山上の春

 貯えた野菜は尽き、葱《ねぎ》、馬鈴薯《じゃがいも》の類まで乏しくなり、そうかと言って新しい野菜が取れるには間があるという頃は、毎朝々々|若布《わかめ》の味噌汁《みそしる》でも吸うより外に仕方の無い時がある。春雨あがりの朝などに、軒づたいに土壁を匍《は》う青い煙を眺めると、好い陽気に成って来たとは思うが、食物《たべもの》の乏しいには閉口する。復た油臭い凍豆腐《しみどうふ》かと思うと、あの黄色いやつが壁に釣されたのを見てもウンザリする。淡雪の後の道をびしょびしょ歩みながら、「草餅《くさもち》はいりませんか」と呼んで来る女の声を聞きつけるのは嬉しい。
 三月の末か四月のはじめあたりに、君の住む都会の方へ出掛けて、それからこの山の上へ引返して来る時ほど気候の相違を感ずるものは無い。東京では桜の時分に、汽車で上州辺を通ると梅が咲いていて、碓氷峠《うすいとうげ》を一つ越せば
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