月の上るは十二時頃であろうという暮方、青い光を帯びた星の姿を南の方の空に望んだ。東の空には赤い光の星が一つ掛った。天にはこの二つの星があるのみだった。山の上の星は君に見せたいと思うものの一つだ。
第一の花
「熱い寒いも彼岸まで」とは土地の人のよく言うことだが、彼岸という声を聞くと、ホッと溜息《ためいき》が出る。五ヵ月の余に渡る長い長い冬を漸く通り越したという気がする。その頃まで枯葉の落ちずにいる槲《かしわ》、堅い大きな蕾を持って雪の中で辛抱し通したような石楠木《しゃくなぎ》、一つとして過ぎ行く季節の記念でないものは無い。
私達が学校の教室の窓から見える桜の樹は、幹にも枝にも紅い艶《つや》を持って来た。家へ帰って庭を眺めると、土塀《どべい》に映る林檎《りんご》や柿の樹影《こかげ》は何時まで見ていても飽きないほど面白味がある。暖くなった気候のために化生した羽虫が早や軒端《のきば》に群を成す。私は君に雑草のことを話したが、三月の石垣の間には、いたち草、小豆《あずき》草、蓬《よもぎ》、蛇《へび》ぐさ、人参《にんじん》草、嫁菜、大なずな、小なずな、その他数え切れないほどの草の
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