学校の帰路《かえりみち》に、鉄道の踏切を越えた石垣の下のところで、私は少年の群に逢った。色の黒い、二本棒の下った、藁草履《わらぞうり》を穿《は》いた子供等で、中には素足のまま土を踏んでいるのもある。「野郎」、「この野郎」、と互に顔を引掻《ひっか》きながら、相撲《すもう》を取って遊んでいた。
 何処《どこ》の子供も一種の俳優《やくしゃ》だ。私という見物がそこに立って眺《なが》めると、彼等は一層調子づいた。これ見よがしに危い石垣の上へ登るのもあれば、「怪我しるぞ」と下に居て呼ぶのもある。その中で、体躯《なり》の小な子供に何歳《いくつ》に成るかと聞いてみた。
「おら、五歳《いつつ》」とその子供が答えた。
 水車小屋の向うの方で、他の少年の群らしい声がした。そこに遊んでいた子供の中には、それを聞きつけて、急に馳出《かけだ》すのもあった。
「来ねえか、この野郎――ホラ、手を引かれろ」
 とさすがに兄らしいのが、年下《としした》の子供の手を助けるように引いた。
「やい、米でも食《くら》え」
 こんなことを言って、いきなり其処《そこ》にある草を毟《むし》って、朋輩《ほうばい》の口の中へ捻込《ね
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