当かも知れぬ。
この掘出されたという感じを強く与えるものは、町の往来に高く築《つ》き上げてある雪の山だ。屋根から下す多量な雪を、人々が集って積み上げ積み上げするうちに、やがて人家の軒よりも高く成る。それが往来の真中に白壁の如く続いている。家々の軒先には「ガンギ」というものを渡して、その下を用事ありげな人達が往来している。屋内の暗さも大凡《おおよそ》想像されよう。それに高い葭簾《よしず》で家をかこうということが、一層屋内を暗くする。私は娘達を残して置いて、独《ひと》りで町へ出てみた。チラチラ雪の中で橙火《あかり》の点《つ》く頃だった。私は天の一方に、薄暗い灰色な空が紅色を帯びるのを望んだ。丁度遠いところの火事が曇った空に映ずるように。それが落日の反射だった。
雪煙もこの辺でなければ見られないものだ。実に陰鬱《いんうつ》な、頭の上から何か引冠《ひきかぶ》せられているような気のするところだ。土地の人が信心深いというのも、偶然では無いと思う。この町だけに二十何カ処の寺院がある。同じ信州の中でも、ここは一寸|上方《かみがた》へでも行ったような気が起る。言葉|遣《づか》いからして高原の地方とは
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