っているのを瞰下《みおろ》して、秋の日にチラチラする雑木の霜葉のかげからそれを眺めた時は、丁度羊の群でも見るような気がした。川船は今、その下を通るのだ。どうかすると、水に近い楊の枯枝が船の屋根に触れて、それを潜り抜けて行く時にはバラバラ音がした。
船の中は割合に暖かだった。同じ雪国でも高原地に比べると気候の相違を感ずる。それだけ雪は深い。午後の日ざしの加減で、対岸の山々が紫がかった灰色の影を水に映して見せる。私は船窓を開けて、つぶやくような波の音を聞いたり、舷《ふなべり》にあたる水を眺めたりして行った。この川船は白いペンキで塗って、赤い二本の筋をあらわしてある。
ある舟橋に差掛った。船は無作法《むぞうさ》にその下を潜り抜けて行った。
黒岩山を背景にして、広々とした千曲川の河原に続いた町の眺めが私達の眼前《めのまえ》に展《ひら》けた。雪の中には鶏の鳴声も聞える。人家の煙も立ちこめている。それが旧い飯山の城下だ。
雪の海
一晩に四尺も降り積るというのが、これから越後へかけての雪の量だ。飯山へ来て見ると、全く雪に埋もれた町だ。あるいは雪の中から掘出された町と言った方が適
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