はらして来る程の年頃で、知らない土地へ二人ぎり出掛るとは余程の奮発だ。でもまだ真実《ほんとう》に娘々したところのある人達で、互に肘《ひじ》で突付き合ったり、黄ばんだ歯をあらわして快活に笑ったり、背後《うしろ》から友達を抱いて車中の退屈を慰めたりなどする。Naiveな、可憐《かれん》な、見ていても噴飯《ふきだ》したくなるような連中だ。御蔭で私も紛れて行った。Iの方は私の家の大屋さんの娘だ。
豊野で汽車を下りた。そのあたりは耕地の続いた野で、附近には名高い小布施《おぶせ》の栗林《くりばやし》もある。その日は四阿《あずま》、白根の山々も隠れてよく見えなかった。雪の道を踏んで行くうちに、路傍に梨や柿の枯枝の見える、ある村の坂のところへ掛った。そこは水内《みのち》の平野を見渡すような位置にある。私が一度その坂の上に立った時は秋で、豊饒《ほうじょう》な稲田は黄色い海を見るようだった。向の方には千曲川の光って流れて行くのを望んだこともあった。遠く好い欅《けやき》の杜《もり》を見て置いたが、黄緑な髪のような梢《こずえ》からコンモリと暗い幹の方まで、あの樹木の全景は忘られずにある。雪の中を私達は蟹沢《
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