の窪《くぼ》みへは雪が積って、それがウネウネと並行した白い線を描いた中に、枯々な雑木なぞがポツンポツンと立つのも見えた。
雪国の鬱陶《うっとう》しさよ。汽車は犀川《さいかわ》を渡った。あの水を合せてから、千曲川は一層大河の趣を加えるが、その日は犀川附近の広い稲田も、岸にある低い楊《やなぎ》も、白い土質の崖《がけ》も、柿の樹の多い村落も、すべて雪に掩われて見えた。その沈んだ眺望は唯《ただ》の白さでなくて、紫がかった灰色を帯びたものだった。遠い山々は重く暗い空に隠れて、かすかに姿をあらわして見せた。この一面の雪景色の中で、僅《わず》かに単調を破るものは、ところどころに見える暗い杜《もり》と、低く舞う餓《う》えた烏《からす》の群とのみだ。行手には灰色な雪雲も垂下って来た。次第に私は薄暗い雪国の底の方へ入って行く気がした。ある駅を離れる頃には雪も降って来た。
この旅は私|独《ひと》りでなく小諸から二人の連があった。いずれも私の家に近いところの娘達で、I、Kという連中だ。この二人は小諸の小学を卒《お》えて、師範校の講習を受ける為に飯山まで行くという。汽車の窓から親達の住む方を眺めて、眼を泣き
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