かにさわ》まで歩いた。そこまで行くと、始めて千曲川に舟を見る。
川船
降ったり休《や》んだりした雪は、やがて霙《みぞれ》に変って来た。あの粛々《しとしと》降りそそぐ音を聞きながら、私達は飯山行の便船が出るのを待っていた。男は真綿帽子を冠り、藁靴《わらぐつ》を穿《は》き、女は紺色染の真綿を亀《かめ》の甲のように背中に負《しょ》って家の内でも手拭《てぬぐい》を冠る。それがこの辺で眼につく風俗だ。休茶屋を出て川の岸近く立って眺めると上高井の山脈、菅平《すがだいら》の高原、高社山《たかしろやま》、その他の山々は遠く隠れ、対岸の蘆荻《ろてき》も枯れ潜み、洲《す》の形した河心の砂の盛上ったのも雪に埋もれていた。奥深く、果てもなく白々と続いた方から、暗い千曲川の水が油のように流れて来る。これが小諸附近の断崖《だんがい》を突いて白波を揚げつつ流れ下る同じ水かと思うと、何となく大河の勢に変って見える。上流の方には、高い釣橋が多いが、ここへ来ると舟橋も見られる。
そのうちに乗客が集って来た。私達は雪の積った崖に添うて乗場の方へ降りた。屋根の低い川船で、人々はいずれも膝《ひざ》を突合せて乗
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