、小諸のような砂地の傾斜に石垣を築いてその上に骨の折れる生活を営む人達は、勢い質素に成らざるを得ない。寒い気候と痩《や》せた土地とは自然に勤勉な人達を作り出した。ここの畠からは上州のような豊富な野菜は受取れない。堅い地大根の沢庵《たくあん》を噛《か》み、朝晩|味噌汁《みそしる》に甘んじて働くのは小諸である。十年も昔に流行《はや》ったような紋付羽織を祝儀不祝儀に着用して、それを恥ともせず、否むしろ粗服を誇りとするが小諸の旦那《だんな》衆である。けれども私は小諸の質素も一種の形式主義に落ちているのを認める。私は、他所《よそ》で着て来たやわらか物を脱いでそれを綿服に着更《きが》えながら小諸に入る若い謀反《むほ》人のあることを知っている。要するに、表面《おもて》は空《むな》しく見せてその実豊かに、表面は無愛想でもその実親切を貴ぶのが小諸だ。これが生活上の形式主義を産む所以《ゆえん》であろうと思う。上田へ来て見ると、都会としての規模の大小はさて措《お》き、又実際の殷富《とみ》の程度はとにかく、小諸ほど陰気で重々しくない。小諸の商人は買いたか御買いなさいという無愛想な顔付をしていて、それで割合に良
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