まい》を出た。
 小諸停車場には汽車を待つ客も少い。駅夫等は集って歌留多《かるた》の遊びなぞしていた。田中まで行くと、いくらか客を加えたが、その田舎らしい小さな駅は平素《いつも》より更に閑静《しずか》で、停車場の内で女子供の羽子をつくさまも、汽車の窓から見えた。
 初春とは言いながら、寒い黄ばんだ朝日が車窓の硝子《ガラス》に射し入った。窓の外は、枯々な木立もさびしく、野にある人の影もなく、ひっそりとして雪の白く残った谷々、石垣の間の桑畠《くわばたけ》、茶色な櫟《くぬぎ》の枯葉なぞが、私の眼に映った。車中にも数えるほどしか乗客がない。隅《すみ》のところには古い帽子を冠り、古い外套《がいとう》を身に纏《まと》い赤い毛布《ケット》を敷いて、まだ十二月らしい顔付しながら、さびしそうに居眠りする鉄道員もあった。こうした汽車の中で日を送っている人達のことも思いやられた。(この山の上の単調な鉄道生活に堪《た》え得るものは、実際は越後人ばかりであるとか)
 上田町に着いた。上田は小諸の堅実にひきかえ、敏捷《びんしょう》を以て聞えた土地だ。この一般の気風というものも畢竟《つまり》地勢の然らしめるところで
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