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私も旅の心を慰める為に、すこしばかり雲の日記なぞをつけて見ているが、こう的確に専門家から問を出された時は、一寸返事に困った。
鉄道草
鉄道が今では中仙道《なかせんどう》なり、北国《ほっこく》街道なりだ。この千曲川の沿岸に及ぼす激烈な影響には、驚かれるものがある。それは静かな農民の生活までも変えつつある。
鉄道は自然界にまで革命を持来《もちきた》した。その一例を言えば、この辺で鉄道草と呼んでいる雑草の種子は鉄道の開設と共に進入し来《きた》ったものであるという。野にも、畠にも、今ではあの猛烈な雑草の蔓延《まんえん》しないところは無い。そして土質を荒したり、固有の草地を制服したりしつつある。
屠牛《とぎゅう》の一
上田の町はずれに屠牛場のあることは聞いていたがそれを見る機会もなしに過ぎた。丁度上田から牛肉を売りに来る男があって、その男が案内しようと言ってくれた。
正月の元日だ。新年早々屠牛を見に行くとは、随分|物数寄《ものずき》な話だとは思ったが、しかし私の遊意は勃々《ぼつぼつ》として制《おさ》え難いものがあった。朝早く私は上田をさして小諸の住居《す
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