を出た。
私が案内されて行った会堂風の建物は、丁度坂に成った町の中途にあった。そこへ行くまでに私は雪の残った暗い町々を通った。時々私は技手と一緒に、凍った往来に足を留めて、後部《うしろ》の方に起る女連《おんなれん》の笑声を聞くこともあった。その高い楽しい笑声が、寒い冬の空気に響いた時は、一層雪国の祭の夜らしい思をさせた。後に成って私は、若い牧師夫人が二度ほど滑《すべ》って転《ころ》んだことを知った。
赤々とした燈火は会堂の窓を泄《も》れていた。そこに集っていた多勢の子供と共に、私は田舎《いなか》らしいクリスマスの晩を送った。
長野測候所
翌朝、私は親切な技手に伴われて、長野測候所のある岡の上に登った。
途次《みちみち》技手は私を顧みて、ある小説の中に、榛名《はるな》の朝の飛雲の赤色なるを記したところが有ったと記憶するが、飛雲は低い処を行くのだから、赤くなるということは奈何《いかが》などと話した。さすが専門家だけあって話すことがすべて精《くわ》しかった。
測候所は建物としては小さいが、眺望《ちょうぼう》の好い位置にある。そこは東京の気象台へ宛てて日毎の報告を造る場
前へ
次へ
全189ページ中119ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
島崎 藤村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング