りに積る庭の雪は、やがて縁側より高い。その間から顔を出す石南木《しゃくなぎ》なぞを見ると、葉は寒そうにべたりと垂れ、強い蕾《つぼみ》だけは大きく堅く附着《くっつ》いている。冬籠りする土の中の虫同様に、寒気の強い晩なぞは、私達の身体も縮こまって了う……
 こういう寒さと、凍った空気とを衝《つ》いて、私は未知の人々に逢う楽みを想像しながら、クリスマスのあるという日の暮方に長野へ入った。例の測候所の技手の家を訪ねると、主人はまだ若い人で、炬燵《こたつ》にあたりながらの気象学の話や、文学上の精《くわ》しい引証談なぞが、私の心を楽ませた。ラスキンが「近代画家」の中にある雲の研究の話なども出た。ラスキンが雲を三層に分けた頃から思うと、九層の分類にまで及んだ近時の雲形の研究は進んだものだ。こう主人が話しているところへ、ある婦人の客も訪ねて来た。
 私が主人から紹介されたその若い婦人は、牧師の夫人で、主人が親しい友達であるという。快活な声で笑う人だった。その晩歌うクリスマスの唱歌で、その主人の手に成ったものも有るとのことだった。やがて降誕祭《クリスマス》を祝う時刻も近づいたので、私達は連立って技手の家
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