ったり、ひょろひょろと歩き廻ったりした。
亭主は私達を馬小屋の前に連れて行った。赤い馬が首を出して、鼻をブルブル言わせた。冬季のことだから毛も長く延び、背は高く、目は優しく、肥大な骨格の馬だ。亭主は例のフスマに芋、葱のうでたのを混ぜ、ツタを加えて掻廻し、それを大桶《おおおけ》に入れて、馬小屋の鍵《かぎ》に掛けて遣《や》った。馬はあまえて、朝飯欲しそうな顔付をした。
「廻って来い」
と亭主が言うと、馬は主人の言葉を聞分けて、ぐるりと一度小屋の内を廻った。
「もう一度――」
と復《ま》た亭主が馬の鼻面《はなづら》を押しやった。それからこの可憐《かれん》な動物は桶の中へ首を差込むことを許された。馬がゴトゴトさせて食う傍《そば》で、亭主は一斗五升の白水が一吸に尽されることを話して、私達を驚かした。
山上の雲は漸《ようや》く白く成って行った。谷底も明けて行った。光の触れるところは灰色に望まれた。
細君が膳の仕度の出来たことを知らせに来た。めずらしいところで、私達は朝の食事をした。亭主は食べ了《おわ》った茶碗に湯を注ぎ、それを汁椀《しるわん》にあけて飲み尽し、やがて箱膳《はこぜん》の中か
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