新築の家というは小屋に近く建ててあった。私達はその家の方へ案内されて、そこで一晩泊めて貰った。漸く普請が出来たばかりだとか、戸のかわりに唐紙《からかみ》を押つけ、その透間から月の光も泄《も》れた。私達は毛布にくるまり、燈火《あかり》も消し、疲れて話もせずに眠った。
山の上の朝飯
翌朝の三時頃から、同じ家の内に泊っていた土方は最早起き出す様子だ。この人達の話声は、前の晩遅くまで聞えていた。雉子《きじ》の鳴声を聞いて、私達も朝早く床を離れた。
私達は重《かさ》なり畳《かさ》なった山々を眼の下に望むような場処へ来ていた。谷底はまだ明けきらない。遠い八ヶ岳は灰色に包まれ、その上に紅い雲が棚引《たなび》いた。次第に山の端《は》も輝いて、紅い雲が淡黄に変る頃は、夜前真黒であった落葉松《からまつ》の林も見えて来た。
亭主と連立って、私達は小屋の周囲《まわり》にある玉菜畠、葱畠、菊畠などの間を見て廻った。大根乾した下の箱の中から、家鴨《あひる》が二羽ばかり這出《はいだ》した。そして喜ばしそうに羽ばたきして、そこいらにこぼれたものを拾っては、首を縮めたり、黄色い口嘴《くちばし》を振
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