ぞと
のがれいでては住みなれし
御寺《みてら》の蔵裏《くり》の白壁《しらかべ》の
眼にもふたたび見ゆるかな
いざさらば
住めば仏のやどりさへ
火炎《ほのほ》の宅《いへ》となるものを
なぐさめもなき心より
流れて落つる涙かな
いざさらば
心の油濁るとも
ともしびたかくかきおこし
なさけは熱くもゆる火の
こひしき塵《ちり》にわれは焼けなむ
[#改段]
二 六人の処女《をとめ》
おえふ
処女《をとめ》ぞ経《へ》ぬるおほかたの
われは夢路《ゆめぢ》を越えてけり
わが世の坂にふりかへり
いく山河《やまかは》をながむれば
水《みづ》静《しづ》かなる江戸川の
ながれの岸にうまれいで
岸の桜の花影《はなかげ》に
われは処女《をとめ》となりにけり
都鳥《みやこどり》浮《う》く大川に
流れてそゝぐ川添《かはぞひ》の
白菫《しろすみれ》さく若草《わかぐさ》に
夢多かりし吾《わが》身かな
雲むらさきの九重《ここのへ》の
大宮内につかへして
清涼殿《せいりょうでん》の春の夜《よ》の
月の光に照らされつ
雲を彫《ちりば》め濤《なみ》を刻《ほ》り
霞《かすみ》をうかべ日をまねく
玉の台《うて
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