二

しづかにてらせる
     月のひかりの
などか絶間なく
     ものおもはする
さやけきそのかげ
     こゑはなくとも
みるひとの胸に
     忍び入るなり

なさけは説《と》くとも
     なさけをしらぬ
うきよのほかにも
     朽《く》ちゆくわがみ
あかさぬおもひと
     この月かげと
いづれか声なき
     いづれかなしき

  強敵

一つの花に蝶《ちょう》と蜘蛛《くも》
小蜘蛛は花を守《まも》り顔
小蝶は花に酔ひ顔に
舞へども/\すべぞなき

花は小蜘蛛のためならば
小蝶の舞《まひ》をいかにせむ
花は小蝶のためならば
小蜘蛛の糸をいかにせむ

やがて一つの花散りて
小蜘蛛はそこに眠れども
羽翼《つばさ》も軽き小蝶こそ
いづこともなくうせにけれ

  別離
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人妻をしたへる男の山に登り其
女の家を望み見てうたへるうた
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誰《たれ》かとゞめん旅人《たびびと》の
あすは雲間《くもま》に隠るゝを
誰か聞くらん旅人の
あすは別れと告げましを

清《きよ》き恋とや片《かた》し貝《がひ》
われのみもの
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