秋の百葉《ももは》を落すとき

人は利剣《つるぎ》を振《ふる》へども
げにかぞふればかぎりあり
舌は時世《ときよ》をのゝしるも
声はたちまち滅ぶめり

高くも烈《はげ》し野も山も
息吹《いぶき》まどはす秋風よ
世をかれ/″\となすまでは
吹きも休《や》むべきけはひなし

あゝうらさびし天地《あめつち》の
壺《つぼ》の中《うち》なる秋の日や
落葉と共に飄《ひるがへ》る
風の行衛《ゆくへ》を誰か知る

  雲のゆくへ

庭にたちいでたゞひとり
秋海棠《しゅうかいどう》の花を分け
空ながむれば行く雲の
更《さら》に秘密を闡《ひら》くかな

  小詩二首

    一

ゆふぐれしづかに
     ゆめみんとて
よのわづらひより
     しばしのがる

きみよりほかには
     しるものなき
花かげにゆきて
     こひを泣きぬ

すぎこしゆめぢを
     おもひみるに
こひこそつみなれ
     つみこそこひ

いのりもつとめも
     このつみゆゑ
たのしきそのへと
     われはゆかじ

なつかしき君と
     てをたづさへ
くらき冥府《よみ》までも
     かけりゆか
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