る
闇もこれより隣なる
声ふりあげて鳴くときは
ひとの長眠《ねむり》のみなめざめ
夜は日に通ふ夢まくら
明けはなれたり夜はすでに
いざ妻鳥《つまどり》と巣を出《い》でて
餌《ゑ》をあさらんと野に行けば
あなあやにくのものを見き
見しらぬ鶏《とり》の音《ね》も高に
あしたの空に鳴き渡り
草かき分けて来るはなぞ
妻恋ふらしや妻鳥《つまどり》を
ねたしや露に羽《はね》ぬれて
朝日にうつる影見れば
雄鶏《をどり》に惜《を》しき白妙《しろたへ》の
雲をあざむくばかりなり
力あるらし声たけき
敵《かたき》のさまを懼《おそ》れてか
声色《いろ》あるさまに羞《は》ぢてかや
妻鳥《めどり》は花に隠れけり
かくと見るより堪へかねて
背をや高めし夫鳥《つまどり》は
羽《は》がきも荒く飛び走り
蹴爪に土をかき狂ふ
筆毛《ふでげ》のさきも逆立《さかだ》ちて
血潮《ちしほ》にまじる眼のひかり
二つの鶏《とり》のすがたこそ
是《これ》おそろしき風情《ふぜい》なれ
妻鳥《めどり》は花を馳《か》け出でて
争闘《あらそひ》分くるひまもなみ
たがひに蹴合ふ蹴爪《けづめ》には
火焔《ほのほ》もちるとうたがはる
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