へかし

雲となりまた雨となる
昼の愁《うれ》ひはたえずとも
星の光をかぞへ見よ
楽《たのし》みのかず夜《よ》は尽きじ

夢かうつゝか天《あま》の川《がは》
星に仮寝の織姫の
ひゞきもすみてこひわたる
梭《をさ》の遠音《とほね》を聞かめやも

  昼の夢

花橘《はなたちばな》の袖《そで》の香《か》の
みめうるはしきをとめごは
真昼《まひる》に夢を見てしより
さめて忘るゝ夜のならひ
白日《まひる》の夢のなぞもかく
忘れがたくはありけるものか

ゆめと知りせばなまなかに
さめざらましを世に出《い》でて
うらわかぐさのうらわかみ
何をか夢の名残ぞと
問はゞ答へん目さめては
熱き涙のかわく間もなし

  東西南北

男ごころをたとふれば
つよくもくさをふくかぜか
もとよりかぜのみにしあれば
きのふは東けふは西

女ごころをたとふれば
かぜにふかるゝくさなれや
もとよりくさのみにしあれば
きのふは南けふは北

  懐古

天《あま》の河原《かはら》にやほよろづ
ちよろづ神のかんつどひ
つどひいませしあめつちの
始《はじめ》のときを誰《たれ》か知る

それ大神《おほがみ》の天雲《あまぐも》の

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