うちよせて
あゆむとすればなつかしや
梅花《ばいか》の油|黒髪《くろかみ》の
乱れて匂《にほ》ふ傘のうち
恋の一雨《ひとあめ》ぬれまさり
ぬれてこひしき夢の間《ま》や
染めてぞ燃ゆる紅絹《もみ》うらの
雨になやめる足まとひ
歌ふをきけば梅川よ
しばし情《なさけ》を捨てよかし
いづこも恋に戯《たはぶ》れて
それ忠兵衛《ちゅうべえ》の夢がたり
こひしき雨よふらばふれ
秋の入日の照りそひて
傘の涙を乾《ほ》さぬ間《ま》に
手に手をとりて行きて帰らじ
秋に隠れて
わが手に植ゑし白菊の
おのづからなる時くれば
一もと花の暮陰《ゆふぐれ》に
秋に隠《かく》れて窓にさくなり
知るや君
こゝろもあらぬ秋鳥《あきどり》の
声にもれくる一ふしを
知るや君
深くも澄《す》める朝潮《あさじほ》の
底にかくるゝ真珠《しらたま》を
知るや君
あやめもしらぬやみの夜に
静《しづか》にうごく星くづを
知るや君
まだ弾《ひ》きも見ぬをとめごの
胸にひそめる琴の音《ね》を
知るや君
秋風の歌
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さびしさ
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