はひ》を数ふべし

野の鳥ぞ啼《な》く山河《やまかは》も
ゆふべの夢をさめいでて
細く棚引《たなび》くしのゝめの
姿をうつす朝ぼらけ

小夜《さよ》には小夜のしらべあり
朝には朝の音《ね》もあれど
星の光の糸の緒《を》に
あしたの琴《こと》は静《しづか》なり

まだうら若き朝の空
きらめきわたる星のうち
いと/\若き光をば
名《なづ》けましかば明星と

  潮音

わきてながるゝ
やほじほの
そこにいざよふ
うみの琴
しらべもふかし
もゝかはの
よろづのなみを
よびあつめ
ときみちくれば
うらゝかに
とほくきこゆる
はるのしほのね

  酔歌

旅と旅との君や我
君と我とのなかなれば
酔ふて袂《たもと》の歌草《うたぐさ》を
醒《さ》めての君に見せばやな

若き命も過ぎぬ間《ま》に
楽しき春は老いやすし
誰《た》が身にもてる宝《たから》ぞや
君くれなゐのかほばせは

君がまなこに涙あり
君が眉には憂愁《うれひ》あり
堅《かた》く結べるその口に
それ声も無きなげきあり

名もなき道を説《と》くなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐《かひ》なきことをなげくより
来《きた》りて美《うま》き酒に泣
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