まくをひきあけて
春をうかゞふことなかれ
はなさきにほふ蔭をこそ
春の台《うてな》といふべけれ

小蝶《こちょう》よ花にたはぶれて
優しき夢をみては舞ひ
酔《ゑ》ふて羽袖《はそで》もひら/\と
はるの姿をまひねかし

緑のはねのうぐひすよ
梅の花笠ぬひそへて
ゆめ静《しづか》なるはるの日の
しらべを高く歌へかし

  小詩

くめどつきせぬ
わかみづを
きみとくまゝし
かのいづみ

かわきもしらぬ
わかみづを
きみとのまゝし
かのいづみ

かのわかみづと
みをなして
はるのこゝろに
わきいでん

かのわかみづと
みをなして
きみとながれん
花のかげ

  明星

浮べる雲と身をなして
あしたの空《そら》に出でざれば
などしるらめや明星の
光の色のくれなゐを

朝の潮《うしほ》と身をなして
流れて海に出でざれば
などしるらめや明星の
清《す》みて哀《かな》しききらめきを

なにかこひしき暁星《あかぼし》の
空《むな》しき天《あま》の戸を出でて
深くも遠きほとりより
人の世近く来《きた》るとは

潮《うしほ》の朝のあさみどり
水底《みなそこ》深き白石を
星の光に透《す》かし見て
朝の齢《よ
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