の羽《はね》もまだ弱き
それも初音《はつね》か鶯《うぐひす》の

春きにけらし春よ春
まだ白雪の積れども
若菜の萌《も》えて色青き
こゝちこそすれ砂の上《へ》に

春きにけらし春よ春
うれしや風に送られて
きたるらしとや思へばか
梅が香《か》ぞする海の辺《べ》に

磯辺に高き大巌《おほいは》の
うへにのぼりてながむれば
春やきぬらん東雲《しののめ》の
潮《しほ》の音《ね》遠き朝ぼらけ

  春


   一 たれかおもはむ

たれかおもはむ鶯《うぐひす》の
涙もこほる冬の日に
若き命は春の夜の
花にうつろふ夢の間《ま》と
あゝよしさらば美酒《うまざけ》に
うたひあかさん春の夜を

梅のにほひにめぐりあふ
春を思へばひとしれず
からくれなゐのかほばせに
流れてあつきなみだかな
あゝよしさらば花影に
うたひあかさん春の夜を

わがみひとつもわすられて
おもひわづらふこゝろだに
春のすがたをとめくれば
たもとににほふ梅の花
あゝよしさらば琴《こと》の音《ね》に
うたひあかさん春の夜を

   二 あけぼの

紅《くれなゐ》細くたなびけたる
雲とならばやあけぼのの
       雲とならばや

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