》にともなはれ
夜《よる》白河を越えてけり
道なき今の身なればか
われは道なき野を慕ひ
思ひ乱れてみちのくの
宮城野《みやぎの》にまで迷ひきぬ
心の宿《やど》の宮城野よ
乱れて熱き吾《わが》身には
日影も薄く草枯れて
荒れたる野こそうれしけれ
ひとりさみしき吾耳は
吹く北風を琴《こと》と聴《き》き
悲み深き吾目には
色彩《いろ》なき石も花と見き
あゝ孤独《ひとりみ》の悲痛《かなしさ》を
味ひ知れる人ならで
誰《たれ》にかたらん冬の日の
かくもわびしき野のけしき
都のかたをながむれば
空冬雲に覆《おほ》はれて
身にふりかゝる玉霰《たまあられ》
袖《そで》の氷と閉ぢあへり
みぞれまじりの風|勁《つよ》く
小川の水の薄氷
氷のしたに音するは
流れて海に行く水か
啼《な》いて羽風《はかぜ》もたのもしく
雲に隠るゝかさゝぎよ
光もうすき寒空《さむぞら》の
汝《なれ》も荒れたる野にむせぶ
涙も凍る冬の日の
光もなくて暮れ行けば
人めも草も枯れはてて
ひとりさまよふ吾身かな
かなしや酔ふて行く人の
踏めばくづるゝ霜柱
なにを酔ひ泣く忍び音《ね》に
声もあはれのその歌は
うれしや物
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